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@ Cinema Port

こころにひびく映画紹介

映画『お引越し』

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 ▲想い出の映画作品の魅力は出来るだけイラストで描きたいのですが、上の写真【↑】の場面の彼女の表情はとても素晴らしく…久々にズキズキするような痛みと興奮があったシ-ンなので載せてみました。



[おススメ度・★★★]
相米慎二はいつだって観客と真剣勝負をしてきたような気がする。 『 飛んだカップル 』 『 セ-ラ-服と機関銃 』 『 ションべン・ライダ- 』 『 台風クラブ 』 …。彼の映画を観る事は観客にとっても戦いだった。挑戦する映画監督と、それに答えようとする観客。相米監督では作り手と観客はいつもいい意味での緊張状態にあった。彼はスクリ-ンの向こう側から私達を刺激し続けた。ある時は俳優(※たいていは少女だった)の生理の限界に挑むような激しい演出で。だから彼の映画を観るのは1回1回が真剣勝負だった。

『 お引越し 』は両親が別居した女の子の話だ。’93年当時、私はこの新しい映画の話を聞いた時、まずドキドキした。正直言うと、ここ数年の相米映画は少しばかり淡白になりかけていた気がしていたからだ。映画の主人公達の年齢が上がったせいかもしれない。ズキズキする様な痛みと興奮から遠ざかりつつあった。
が、『 お引越し 』のヒロインは小学校6年生! 相米監督は子供を描くのがウマイ。子供の時間を切り取るのが誰よりもウマイのだ。この分野に関しては完璧というか日本一の監督だと思っている。そしてこの予感は的中した。デピュ-作から見られた、相米監督独特の空間の作り方は『お引越し』でも、やはり印象的であった。ゆったりとしたカメラ移動、人物をフルサイズ以上に捉えた画面作り、そして長回し。その緊張感あふれる独特な空間からは、人の生々しさ、生の息吹きがヒシヒシと伝わってくる完璧な演出だった。

物語は主人公レンコ(田畑智子)の父ケンイチ(中井貴一)のお引越しから始まる。この日からレンコは母のナズナ(桜田淳子)と2人で暮らす事になる。父の引っ越しを手伝い、家がふたつに成ったと無邪気に喜ぶレンコ。けれどもふたつに別れてしまった家庭を行き来するうちに彼女の心は揺れ始める。父と母の別居は離婚を前提にしてのものだった。彼らの仲が良くない事はレンコも薄々気付いていたのだ。が、そんなレンコの心も父と母の間で傷だらけになって追い詰められてくる。こんな台詞がある。

「 あ た し は と う さ ん と か あ さ ん が 

 

ケ ン カ し て も 我 慢 し て た よ 。

な の に な ん で と う さ ん た ち は 我 慢 で き ひ ん の ? 」


痛い言葉だ。 夏休み、レンコは強引に琵琶湖畔への家族旅行を計画する。去年までそうしたように、みんなでお祭りを見て、花火をして、温泉に入れば、またもとの生活が戻ってくるかもしれない。でも父と母の仲はやっぱりギクシャクしたままだった。

レンコは祭りの夜を1人走る。どこまでも、どこまでも。ここからは相米監督の独壇場だ。夜祭り、花火、祭りの興奮、そして祭りの後の静けさ、そして初めての生理。少女は大人に成っていく。夜を走り抜けたレンコは湖畔でかつての自分たちに出会う。その場面の彼女の表情の素晴らしさといったら・・・久々にズキズキするような痛みと興奮が襲ってくる。幸せだった自分たち家族にレンコは大きな声で叫ぶ。

「 お め で と う ご ざ い ま す !  

 

お め で と う ご ざ い ま す ! 」

何度も何度も、手を大きく振って、涙に濡れた彼女の顔は少しだけ大人びている。
おめでとうございます・・・レンコは新しい自分を手にしたのだ。過去の自分を自らの手で洗い清め、新しい自分を迎える。そしてその自分に対して「 おめでとうございます! 」とめいいっぱいのエ-ルを送る…。

ラスト、学校のクラスメイト達が並木道をにぎやかに歩いて行く。先生を振り切って、ワ-っとみんなで駆け出すと、1人レンコは並木の横へ抜け出す。少し大人びたワンピ-ス姿で、並木道の人々に声を掛けていく。そしてもうひとつの並木を超えると中学の制服姿のレンコがカメラに向かって歩いてくる…。その表情は映画の冒頭にあった元気いっぱい、子供の持ち味にあふれたレンコではない。あるがままの世界を受け入れ、自分の力でさらに歩んでいこうとするレンコの姿が鮮明に映し出されていた。

『 お引越し 』は少女の心の成長、すなわち心の〈お引越し〉の物語だ。そして家族それぞれの気持ちのお引越しの物語。今じゃ立派な演技派女優に成長した田畑智子さんではあるが、当時レンコを演じる田畑智子ちゃんという女の子がホント抜群にいいと思って映画館で興奮したのを覚えている。真っ直ぐな黒い瞳、ピンと伸びた背筋、彼女の話す京都弁の余韻までもが愛らしい。

それからレンコの母・桜田淳子のうまさ。はっきりいって彼女がこんなにいい女優だとは思わなかった。娘・レンコが父・ケンイチの家に行こうとして、ナズナに見つかってしまい、家の中を宮崎駿の『となりのトトロ』ばりに絶対に捕まるまいと駆け回り、風呂場に閉じこもり、鍵をかけてしまう。そして両親の言い争いが外ではじまり、収拾がつかなくなる。その時レンコは叫ぶ。

「 何 で 生 ん だ ん ? 」 あまりに切ない叫び。

だがナズナは風呂のドアのガラスをぶち破って、その叫びに応える。ナズナの手がレンコに伸びる。その手は血まみれになっている。その血まみれの手がレンコを捕まえようとするのである。これは圧巻なシ-ンのひとつである。たぶんいろいろトラブルはあった頃の仕事だろうと思う。だからこそいうべきか、この映画の彼女には母の強さ、女の強さがにじみ出ている。このときの女優・桜田淳子に惜しみない拍手をおくりたい! パチパチ・・・

★この『 お引越し 』は相米監督のカメラワ-クの間の撮り方といい、台詞の一行一行の言い回しといい、完璧な演出の凄さといい、役者のの演技力といい…、実に映画的完成度の高い完璧な作品だったと思います。 だからこそ、相米監督のあまりにも早すぎる死に哀悼の念を強く感じ、この映画を始め、彼が残した映画を多くの人々に再確認して観てもらいたいな~と願います。