@ Cinema Port

こころにひびく映画紹介

洋画『TINA (ティナ)』

■大ヒットの裏に秘められた”愛と挑戦の軌跡”

 

パワフルなハスキー・ヴォイスの熱唱で知られるロック歌手のティナ・ターナー。彼女の自伝『私、ティナ』を、テレビ界で活躍しているベテラン監督のブライアン・ギブソンが映画化。とにかく、凄まじい人生である。両親が別居し、母親は幼いティナを祖母に託し、姉だけを連れて都会に働きに出る。後に一緒に暮らせるようになったものの、母親に捨てられたという悲しみは、彼女の心に深い傷を残した。

そして、既にロカビリーの歌手として人気者だったアイク・ターナーとの運命的な出会い。アイクによってティナは”歌手ティナ”として世に出ることになる。

ところが、ティナにとっては運命の男だったアイクこそ、実はとんでもない疫病神だった。女癖が悪い、金遣いが荒い、薬に手を出し、暴力をふるう。憧れのスター、アイクと結婚して幸福の絶頂にあったティナだが、やがて夢は悪夢に変わっていく。

天性の歌唱力を発揮してスターへの階段を昇り始めたティナとは対照的に、歌作りに悩み、才能の限界に苦しむアイクは、嫉妬にかられて激しく暴力をふるった。ティナの運命の転機になったのは、仏教との出会いであった。心の平安を得て、”自分らしく生きよう”と決意した彼女は、アイクと別れ、新しい人生を賭けて復活コンサートに挑むのだった。

ティナを熱演するのはアンジェラ・ザ・バセット(歌はすべてティナ自身の吹き替え)、そしてアイク役にはローレンス・フィッシュバーン。ある意味では”天才歌手を妻に持った平凡なミュージシャンの悲劇”ともいえるこの作品を、ベテランらしい的確な彼の演技が引き締めている。

劇中、ロカビリー、ツイスト、ロックンロールと、50年代から90年代いたるヒット曲がふんだんに登場し、それもストーリーの進展に合わせて絶妙に選曲されて歌われるのも楽しく、エンターテインメントとしても一級の作品であるが、何よりも心を打つのが、既に40代になっていたティナが、新しい自分の音楽としてロックを選ぶラスト・シーン。「もう悲しいブルースは歌いたくない」と言って、若者の音楽である激しいロックに果敢にチャレンジするティナ。その前向きの姿勢には頭の下がる思いがする。

 

 

TINA ティナ [DVD]

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出演: アンジェラ・バセットローレンス・フィッシュバーン、ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ

 

監督: ブライアン・ギブソン