邦画『大病人』
■ガン患者が笑って死ぬには…
伊丹十三監督が軽妙洒脱なエンタテインメントの形を借りて、死というテーマに真っ向から挑戦した意欲作。これには前作『ミンボーの女』が基で刺傷事件に遭い、一時は生死を彷徨って、入院生活を余儀なくされた彼の想いが反映された復帰第1作目。ガン宣告を受けた俳優が、死を目前にしいかに生きるかを、医師や周囲の人々を通して描いた作品。 キャッチフレーズに「僕ならこう死ぬ…」とあるように癌の告知、延命治療、尊厳死、安楽死、慈悲死、臨死体験など死にまつわる問題と周囲の人間模様をコミカルにも鋭いタッチで描く。「人はいかに死を受け入れ、死んでいくべきか」これは彼の命題として、その後も色濃く反映されていったと捉えるのは、監督亡き今だから言える事象。伊丹映画としては珍しくウンチクやハウ・トゥ的要素が少ない非常にストレートな内容であることからも異色です。主人公の臨死シーンでは当時最先端のデジタル合成を駆使し、幻惑的な情緒も醸し出している。
伊丹映画はどれも見応えがありますが、この映画は彼が必ず挿入するエロ場面がそれほど刺激的でなく、そういった点でも本筋から横道にそれずに話を追えているので好きな作品のひとつです。三國連太郎の演技力も去ることながら伊丹十三の世界観が凄まじさを改めて感じます。特に主人公が心肺停止しあの世へ行く映像表現はミケランジェロの世界観に匹敵するぐらいの迫力でした。そこで主人公はすでに亡くなったであろう親類の姿を見つけた時のシーンは涙無しには観られません!! 一応コメディーの形はとっていますが、後半は非常にシリアスな内容になってきます。すべての作品がそうですがよく調べて作っているのがわかります。ダブーがないところが好きです。
ジャンル:コメディ/ドラマ
製作国:日本
製作年:1993年
初公開日:1993年5月29日
上映時間:116分
出演: 三國連太郎, 宮本信子, 津川雅彦, 木内みどり, 高瀬春奈
監督: 伊丹十三