@ Cinema Port

こころにひびく映画紹介

洋画『こうのとり、たちずさんで』

■美を追求する映像作家が描く壮絶な旅の物語

 

タイトルが素敵だ。「立ち止まる」でもなく、「立ちすくむ」でもなく、「たちずさむ」。歌っているような不思議な響き。こうのとりが一羽、長い足を片方だけ上げて、飛び立とうか、どうしようか考えてる。

物語の主人公もそんな恰好をする。川に架かった小さな橋、中央には赤と白と青で色分けされた国境線。彼はその線の手前で立ち止まる。片足立ちして両手を拡げ、こうのとりの姿になって。一歩進めば、そこは異国。けれどもそれは死を意味する。国境の向こうには銃を構えた兵士がいる。国境ってなんだろう? と映画は問いかける。人間がつくった境界線、それはただの線なのに人の運命を、生死を支配する。

忘れられないシーンがある。川をはさんで少年と少女が結婚式を挙げる。神父が立ち会い、大勢の人に祝福されて、ふたりは結ばれる。が、かつて同じ村で育った若い夫婦が触れ合うことはこれから先もない。それでも彼らは形だけの式を挙げる。それが民族の証のように。『旅芸人の記録』『霧の中の風景』のテオ・アンゲロプロス監督作品。美しく冷たい映像は圧巻です。

 

 

こうのとり、たちずさんで [DVD]

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【キャスト】

マルチェロ・マストロヤンニ ジャンヌ・モロー グレゴリー・カー ドラ・クリュシクウ イリアス・ロゴテティス

 

【スタッフ】

監督・脚本:テオ・アンゲロプロス

脚本:トニーノ・グエッラ ペトロス・マルカリス

撮影:ヨルゴス・アルヴァニティス アンドレアス・シナノス

美術:ミケス・カラピペリス

音楽:エレニ・カラインドルー

1991年 ギリシャ=フランス=イタリア=スイス作品

 公開日:1992年9月公開