邦画『アンモナイトのささやきを聞いた 』
■”はかなさ”に彩られた、優しい幻想世界
映画には二つのタイプがある。ハリウッド産エンターテインメント大作に代表される明確なストーリー展開で見る者の興味をスリーリー自身に注がせるタイプと、逆に映像スタイルに観客を酔わせるタイプ。その両者が適度な割合で混合していれば言うことがないのだが、そういった映画はかなり少ない。
そしてこの映画は明らかに後者のタイプである。監督の山田勇男はこれが初の劇場用長編となるが、それまで発表してきた幻想的な短編作品によって、世界的に注目を集めてきた鬼才。その作品はPFF(ぴあフィルムフェスティバル)やイメージフォーラムで入賞していると言えば、その作品世界はイメージ出来るはず。彼の16ミリ作品は世界各国の映画祭で紹介されているだけでなく、美術館や大学にも収蔵され、アーティストとして高く評価されている。
そしてこの映画は宮沢賢治と妹トシの関係をモチーフにした物語。鉱物学者の助手を務める「兄」と、重い病気で入院している「妹」。ある日、妹から螺旋摸様の手紙が届いた。この手紙をきっかけとして、兄は様々な不思議な夢を見る。そしてその事は、アンモナイトや青い魚といった幻想的なオブジェを介しながら、彼は「妹」の懐かしい記憶へと連れ戻していくのだった……。
主役の兄に扮するのは、ロック・シンガーであり、エッセイスト、歯科医でもあるマルチタレント、サエキけんぞう。その他、日本を代表する版画家の一原有徳、「夢見るように眠りたい」「ドグラマグラ」などの美術を担当した木村威夫という個性豊かなキャスティングと、サイモン・ターナーによる音楽も魅力的。”憧れ”や”郷愁”など、普段忘れてしまっている感情を優しく思い出させてくれる映画です。
【スタッフ】
監督:山田勇男
脚本:山田勇男
製作:堀越謙三
プロデューサー:山崎陽一
撮影:麻生知宏
美術:佐々木英秋
音楽:サイモン・フィッシャー・ターナー
録音:本田孜
照明:麻生知宏
編集:浦岡敬一
助監督:井上瑞保
スチール:伊藤博人
【キャスト】
兄:サエキけんぞう
妹:石丸ひろ子
少年(兄):藤田哲也
少女(妹):押部麗奈少女
翅の子供 :押部麗央
老人:一原有徳
教授:木村威夫
母:橋本一子
作業員:花輪和一
ーー:鈴木翁二
ーー:森雅之
老人の声:宮内幸平