@ Cinema Port

こころにひびく映画紹介

社会と歴史が見える韓国映画10

韓国映画は、社会問題や史実をテーマにした作品が多く、

 

隣国を知るきっかけになるはず。

 

社会と歴史が見える韓国映画10

 

1⃣オマージュ

シン・スウォン(2021年)

オマージュ

オマージュ

  • イ・ジョンウン
Amazon

🥀60年代に活躍した女性監督がモデル

監督は女性でシン・スウォン。1967年生まれ。2015年「マドンナ」などがあります。2011年に本作に出てくる韓国初の女性監督パク・ナモクのドキュメンタリーを撮影。

 

「パラサイト半地下の家族」の家政婦役で注目を浴びた演技派イ・ジョンウンが、1960年代の映画の修復にあたる現代の女性監督を演じています。いつもは笑える役ですが本作では真面目な役。眼鏡をかけた顔はスウォン監督と似てます。「女性に厳しい時代」というせりふもあり毒殺された韓国初の女性判事や練炭自殺で亡くなった女性の話も出てきます。

 

その60年代の映画、女性監督による「女性刑事」も興味深く、時代を超えた女性監督の苦労と映画愛がにじみ出ています。シン・スウォン監督は男性中心の韓国映画で10年以上にわたり奮闘してきた数少ない女性監督の一人。失われたフィルムをめぐって関係者を訪ねて回る、ドキュメンタリーともいえる作風に惹きつけられます。

 

2⃣82年生まれ、キム・ジョン

キム・ドヨン(2019年)

 

🥀大丈夫、あなたは一人じゃない。

結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。ある日は夫の実家で自身の母親になり文句を言う。「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」。ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になり、夫にアドバイスをする。「体が楽になっても気持ちが焦る時期よ。お疲れ様って言ってあげて」。ある日は祖母になり母親に語りかける。「ジヨンは大丈夫。お前が強い娘に育てただろう」――その時の記憶はすっぽりと抜け落ちている妻に、デヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられず、ひとり精神科医に相談に行くが・・・。

 

近年、韓国でも女性監督の活躍が目立ちます。背景には18年に広まった#MeToo運動があります。フェミズム隆盛のきっかけとなった小説『82年生まれ、キム・ジオン』の映画版には、少子化の要因の一つとされる「経歴断絶女性」が出てきます。出産育児で仕事を辞めた女性の再就職が難しいという問題で、最近は「経歴保有女性」と言い換えるようになってきました。

 

3⃣ペパーミント・キャンディー

イ・チャンドン(1999年)

 


🥀巨匠イ・チャンドン監督 伝説の傑作が20年の時を経て蘇る
激動の韓国現代史を背景に、20年の記憶をたどる時間旅行

アジアを代表する映画作家イ・チャンドン監督が放った長編第2作目。1980年、民主化運動が暴力的に鎮圧され、多くの犠牲者が出た「光州事件」。本作では、加害者の苦悩が描かれています。主人公の男性(ソル・ギョング)が自殺に至るまでの20年を遡る映画で、1980年まで遡ったところで、光州事件の時に女子学生を誤射したトラウマが、その後の人生を狂わせたことがわかります。

 

韓国で大絶賛の嵐を巻き起こし動員50万人突破の大ヒットを記録。韓国のアカデミー賞である大鐘賞で主要5部門を独占し、全世界の映画祭で高い評価を受け、日本にも多くのファンを持つ伝説的傑作。

 

 

4⃣1987、ある闘いの真実

チャン・ジュナン(2017年)

🥀1987年、一人の大学生の死が人々の心に火をつけた――
巨大権力と普通の人々の闘いを描く衝撃の実話!

1987年の「6月民主抗戦」を描いています。光州事件の実態を知った学生たちが民主化運動に身を投じていく様子が描かれています。韓国史上最も強大な権力を相手に一般市民が闘った<民主化闘争>の全貌に迫る真実の物語!!

1987年、軍事政権の圧政に怒りを募らせた民衆が立ち上がり、“強権国家 vs 一般国民"の死闘へと発展していった―。徹底的なリサーチと時代考証を行い、畳み掛ける展開で観る者を一気に引き込む社会派エンターテイメント誕生!

 

劇中で女子大生ヨニが目にする映像は『タクシー運転手 約束は海を越えて』に登場するドイツ人記者が「光州事件」を撮影した実際の映像を使っている。

 

 

5⃣はちどり

キム・ボラ(2018年)

 

🥀キム・ボラ監督 鮮烈の長編デビュー作

ベルリン映画祭を始め、世界各国で50以上の賞を受賞!

誰しも経験したことのあるだろう思春期特有の揺れ動く思い、 家族や友人との関わりを繊細に描いた映画『はちどり』。38歳のキム・ボラ監督の少女時代の体験からヒントを得た本作は、2018年釜山国際映画祭での初上映を皮切りに、ベルリン国際映画祭をはじめ国内外の映画祭で50を超える賞を受賞。韓国では2019年8月に公開され、単館公開規模ながら観客動員15万に迫る異例の大ヒットとなった。

 

映画の舞台は1994年。その年、ソウル中心部を流れる漢江にかかるソンス大橋が突然崩落するという大惨事が起き、韓国の国民に大きな衝撃を与えた。本作は、この事故をクライマックスに、社会全体を覆っていた空気、劇的に変化する韓国社会の前夜を、一人の少女の心の動きを軸に丁寧に映し出している。世界で最も小さい鳥のひとつでありながら、その羽を1 秒に80 回も羽ばたかせ、蜜を求めて長く飛び続けるはちどりは、希望、愛、生命力の象徴とされる。その姿が主人公のウニと似ていると思った、と監督は語る。映画の中で、ウニは様々な感情を抱えながら、成長し、この世界に羽ばたいていこうとする。その姿は、決してウニだけのものではないはずだ。

 

 

6⃣リトル・フォレスト春夏秋冬

イム・スルレ(2018年)

 

読んで美味しい"と話題の大人気コミックを『お嬢さん』のキム・テリ主演で映画化!

ちょっと休んでも、他と違っても、不器用でも大丈夫――。
恋愛、就職と何一つ思いどおりにいかない日常から抜け出し故郷に戻ってきたヘウォンは、旧友であるジェハとウンスクに再会する。他人とは違う自分だけの人生を生きるために故郷に戻ってきたジェハ、平凡な日常からの逸脱を夢見るウンスクと共に自ら育てた農作物で一食一食を作っては食べ冬から春、そして夏、秋を経て再び冬を迎えることになったヘウォン。こうして特別な四季を送りながら、故郷に戻ってきた真の理由を悟ったヘウォンは新たな春を迎えるための第一歩を踏み出すが…。

 

2014年に橋本愛主演で映画化され、大自然に囲まれた小さな集落で暮らす一人の女性の姿を描いた“読んで美味しい"と話題の大人気漫画・五十嵐大介の「リトル・フォレスト」がついに海を越え韓国で映画化! パク・チャヌク監督『お嬢さん』のオーディションで1500分の1の競争率を勝ち抜き、センセーションを巻き起こしたキム・テリが都会の生活に疲れ、故郷に戻るヒロインを瑞々しく演じている。

共演に『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』他、韓国映画界に欠かせない若手俳優No.1のリュ・ジュンヨル。イライラする都会の生活を離れて故郷に戻り、幼馴染と再会し、四季折々の自然と共に旬の食材を使った料理を作って食べ、農業をする丁寧な暮らしを心から楽しむ主人公の姿は、同じく日常に疲れているであろう観客にとって活力と癒やしを与えてくれる

 

人と人をつなぐもう1つの主人公「料理」。日本の漫画原作に韓国的な情緒を加味する方法の1つとして、蒸し餅やマッコリなど伝統料理の他、パスタやトッポギなど若い
観客層が日常的に楽しむ料理を登場させることで、親近感も付け加えられた。ここに主人公ヘウォンと母の思い出の料理として登場するクレーム・ブリュレ、お好み焼きなど、国籍や種類を問わず登場する多様な料理のおもてなしは観客の五感を満足させると
共に、人間関係をつなぐ重要な役割を担っている。

 

 

7⃣おばあちゃんの家

イ・ジョンヒャン(2002年)

🥀“大切な思い出"を共有するような素朴な味わいが心に広がる珠玉の物語

ソウルに住む七歳の少年サンウは、母親と二人で田舎のおばあちゃんの家へ行くことになった。母親が新しい仕事を見つけるまでの間、会ったことのないおばあちゃんと暮らすことになったのだ。話すことができず、読み書きもできないおばあちゃんをサンウはバカにし、不便な山の生活に不満をぶちまける。しかし、おばあちゃんは決して叱らず、サンウの願いを一心に叶えようとする。

 

都会育ちの7才の少年と、田舎暮らししか知らぬ祖母の交流を綴る涙と笑いの感動作!
ユ・スンホが子役として一躍注目され、彼以外は全員素人が出演。

 

 

8⃣子猫をお願い

チョン・ジェウン(2001年)

 

🥀青春映画の爽やかさと同時に人間の悲しみも描く良作

夢想家のテヒ、美貌の野心家ヘジュ、アウトサイダーのジヨン、陽気な双子ピリュとオンジョは高校時代からの仲良し5人組。だが、高校を卒業後、証券会社で働くようになったヘジュと無職のジヨンは互いに反発しあうようになり、仲間の絆を守ろうとするテヒは……。

 

ほえる犬は噛まない』のペ・ドゥナ主演、20歳を迎えた5人の女性の愛と夢、そして挫折を瑞々しく描いた青春ドラマ。高校を卒業したヘジュやテヒら5人。しかし、次第にそれぞれの環境や立場の違いから距離が開き始め…。5人の高校時代の仲良しが、徐々に離れて独立していく話である。また、親から本当に独立するとはどういうことかを考えさせられる話である。親から独立するというのは、自分の価値観で自分にとって本当に大切な人を選ぶということではないだろうか?主人公は親から独立し本当に大切な友達を選び取ったのである。韓国社会だからこその難しさや、2000年代初期の韓国社会の貧しさも描かれる。その中であえいできた人がいることを知らされる。そしてこうした貧しさに苦しむ人は日本にも韓国にもいるのである。自分の夢を不条理に奪われるような貧しさである。その貧しさ自体は決して美しいものではなく、変えていかなければならない社会の問題である。そういうことも考えさせられた。

 

 

9⃣サムジンカンパニー1995

イ・ジョンビル(2020年)

 

🥀じっとしてるだけなんて、つまらない!
ちっぽけな彼女たちの、でっかい逆襲!

実話をもとに描かれる、お仕事エンタテインメント! !

国際化へ向け激変する1995年のソウル――知識と知恵と勇気で会社の不正に立ち向かった女性たちがいた! !金泳三大統領によって“グローバル元年"と位置付けられた1995年の韓国。会社ではTOEICクラスが開設され、英会話学校は人々で溢れかえっていた。変化する時代の中で挫折を繰り返しながらも、決して諦めることなく自分たちを信じて地道に前進していく彼女たち。その姿は爽快でカッコよく、応援せずにはいられない!

 

中身はライトな社会派オフィスコメディです。シリアスな問題を扱う系列にしては、明るい雰囲気で汚染水問題が思わぬところに転がっていきます。時代背景が95年ということで、体験したことがないけど懐かしいサムジングループオフィスへのタイムスリップ
が体験できる不思議効果が良かったです。ラストまで見ると、それなりのあの時代からのメッセージがあり、真面目な映画では「国家破産」に通じる、それなりの感動もあります。

 

 

 

1⃣0⃣ほえる犬は噛まない

ポン・ジュノ(2000年)

 

🥀アカデミー作品賞受賞

「パラサイト 半地下の家族」ポン・ジュノ監督による長篇デビュー作

中流家庭の人々が住む閑静なマンション。飼うことを禁止されているはずの犬の鳴き声がマンション内に響き渡り、うだつの上がらない大学の非常勤講師ユンジュ(イ・ソンジェ)はイラついていた。やがて起きる小犬失踪事件・・・。一方、マンションの管理事務所で働くヒョンナム(ペ・ドゥナ)は平凡で退屈な毎日を送っていた。そんな時、団地に住む少女の愛犬ピンドリがいなくなったと知り、小さな正義感に火がつきビラ貼りを手伝い始めるのだった…。

 

コメディー、ホラーを同居させつつも社会派として国の抱える問題まで切り取ってしまう。しかもヒューマンドラマでもあるという、なんというかもうすごい欲張りマン映画。昭和っぽい音の使い方やゆっくりとしたどこか懐かしい描き方は、岡本喜八伊丹十三作品を彷彿とさせ、とても洗練されている。登場人物も肝心なシーンで余計なことを喋らず、その横顔や余韻で感情を推測させられ、絶妙な演出に常に登場人物たちの胸中を想像させられ続ける。

 

主人公のモラトリアムからの卒業(大学教授になって大人になること)を、まんま犬の死(パトラッシュの死)と重ねて描く。女の子2人は、そのパトラッシュたちを天国に連れて行く天使の役割。他のサイコパスっぽい2人は社会問題と照らし合わせて語ることもできるんだろうけど、シンプルに犬鍋を疑問なく食べてた世代との世代間の隔たりを描いてるのかなと思った。